笛竹の夜ふかき声ぞ聞こゆなる 峯の松風吹きやそふらむ
-藤原斉信
趣深い笛竹の音が夜更けに聞こえてきます。その響きは、峰の松風をも吹き渡らせていることでしょう。
藤原斉信(967〜1035)は、清少納言の『枕草子』において、その艶やかな振る舞いで、当代きっての貴公子として魅力的に描かれています。また『紫式部日記』では、詩歌を朗詠するさまも大変巧みだったと伝わっています。時の権力者であった藤原道長の信頼も厚く、「四納言」のひとりとして、藤原公任、藤原行成、源俊賢とともに一条天皇の御代を支えました。
藤原実資の日記『小右記』には、志高くして出世を望む人物として記されていますが、多才で交遊関係も広かったことがその自信の裏付けだったのでしょう。中宮定子のサロンにも出入りし、時には道長らと長時間作詩に没頭するといった忠勤ぶりも窺えます。中宮彰子にも仕えて順調に昇進し、一時は藤原公任を越えて四納言の筆頭格となりました。
道長は、娘である上東門院(彰子)が初めて参内されるに祝事に合わせ、御屏風を新調しました。そここには斉信らによる和歌の色紙形が貼られましたが、清書役は能書の誉れ高い藤原行成でした。
「上東門院入内の時、御屏風に、松あるいゑに笛吹き遊びしたる人ある所をよみ侍りける 」
斉信は、屏風に描かれていた絵に心を寄せて歌を詠みました。それが今回取り上げた和歌です。「竹」の笛と「松」の風を沿わせることで永寿を詠み込む。斉信の人柄がよくあらわれた、雅な歌だと思います。
―仮名遣い―
ふえた(多)け(介)の(農)よふ(布)か(可)き(支)聲そ(曽)
きこゆな(那)るみねのま(万)つか(可)ぜ(世)ふきやそふらむ
(根本 知)
今月の御菓子:月の音
外郎をベースに、濃淡の紫、水色、黄色を使い幻想的な夜の景色を描きました。表面の曲線が、峯の松風に乗って渡ってゆく笛の音のようです。
中の黄身餡には、ほんのりとバニラの風味を加えました。
菓子製作 巖邑堂(浜松)
台紙貼り表具
中廻し:菱花紋緞子
軸先:竹
今回の歌が詠まれた経緯に「屏風に描かれた絵」があることから、掛け軸の形を屏風になぞらえたものにしました。
(岸野 田)
※次回の更新は、10月上旬を予定しています。
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