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めづらしき光

めづらしき光さしそふさかづきは

もちながらこそ千代もめぐらめ

 -紫式部



素晴らしき月の光を射し添えるこの盃は、皆の手から手へと、まるで望月のように欠けることなく、永遠にめぐることでしょう。


一条天皇と藤原彰子の子である敦成親王。のちの後一条天皇の出産祝いに際して詠んだ和歌です。



親王の誕生は、寛弘五年(1008)九月十一日。『紫式部集』に目を向ければ、その詞書に 「宮の御産養(うぶや)、五日の夜、月の光さへことに隈なき水の上の橋に、上達部、殿よりはじめたてまつりて、酔ひ乱れののしりたまふ盃のをりに、さし出づ」 とあります。



静かな水面は曇りもなく澄みきっていて、月光が美しく輝いています。そこに掛かる橋に、道長をはじめ上達部たちが酒に酔いしれ、大声でお話しながら盃を出しました。その返杯の折りに紫式部が詠ったのがこの歌。月光に親王誕生の栄光の意を掛け、盃に月を掛けています。



さらに、「(盃を)持ちながら」と「望(もち)(月)ながら」を、一座を巡る盃に、月がめぐる意まで含ませます。 道長の有名な「望月の歌」。それより10年も前に、「月」に「后」と「盃」の二つの意を掛けた祝いの歌を詠んでいた紫式部。道長はこの歌をオマージュして「望月の歌」を詠んだのではないかと推しはかりたくなります。



 『源氏物語』が話題になることで道長に召し出され、中宮彰子の女房として仕えることになった藤式部。後世、『源氏物語』の「紫の上」にちなんで「紫式部」と呼ばれるようになりました。彰子に仕えていた期間、道長から大量の紙や筆を提供されていることからも、その信頼は厚く、その支援によって『源氏物語』は完成できたといっても過言ではないのです。




―仮名遣い―


めづらしき(支)ひか(可)りさ(佐)しそ(曽)ふさか(可)づきは(盤)

もちなが(可)らこそ千代もめ(免)ぐらめ


(根本 知)



今月の御菓子:月盃




透明な錦玉羹を盃に注がれた酒に見立て、底には紫色に染めた羊羹に月影が浮かぶよう羊羹を流し合わせました。




菓子製作 巖邑堂(浜松)



 

台紙貼り表具

一文字 : 白地小牡丹文金襴

中廻し: 草花唐草文金襴

天地: 白茶地平絹

軸先: 塗り、金砂子蒔き





中廻しは、大河ドラマ「光る君へ」、縦の題字の表具と同じ裂地を使っています。

歌にある月の光のように、ただし明るい空気感が出るよう努めました。


(岸野 田)



※ひとうたの茶席「平安編」は今回で終了です。ご覧いただいた皆様、誠にありがとうございました。

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